あんの日記

不定期更新

引き籠りはつらいよ

萩尾望都の『半神』って短編集に載ってた『スロー・ダウン』って作品。

感覚遮断実験の話。主人公はゴーグルで視野を狭く、耳栓で聞こえづらく
手袋で感じづらく、多分描かれてないけど食事も味薄く…。
そんな風に人間の五感を鈍らせて白い狭い窓のない部屋に閉じ込めて
外との繋がりはたまにヘッドホンから聞こえる研究者からの指示のみ。
そんな実験に参加する。

実験自体は宇宙とか宇宙船とかで人がどれだけ耐えられるかそういうの調べるやつ。
任意で出られる。睡眠実験ヨロシク、被験者は二日ともたない。相当キツイらしい。

一応期日があるので筋トレとかして耐えるけど刺激のない日々にまあ飽きてくる。
日が経つとたまに外から研究員が自分のものでない名前で呼びかけたり
君は今宇宙に居るとか核戦争からたった一人生き残ってシェルターの中だとか
誤情報を入れてくるので混乱し始める。
もう無理諦めようと思った頃、食事を出す為の窓から外の人間の手が見えて
主人公は思わず掴む。外に人がいる!歓喜して10日?だったかを乗り切る。

はれて外に出ても主人公は現実感を取り戻せなかった。
目の前にいる人間は本物か宇宙人か。自分の名前は本当に正しいのか。
そして主人公は実験へ戻る。今度は研究員として。差し伸べた手を掴まれるために。

そんな話。


私も今そんな感じよねって思った。
四畳半に引き籠って、毎日が地獄みたいに無味無臭で、どんどん状態は悪化して
しかもリタイアできないという…。私もこの扉の外に研究員たちが居てくれて
「お疲れ様」って迎えてくれたならどれだけ良かったか…。


それは置いといて。
この話を最初に読んだ時、何で主人公は実験に戻ったのかわからなかったんです。
「現実感喪失の原因がそれだからかな」とは思ったけど。
何故研究員として入って被験者に手を掴まれたら元に戻ると思ったの?て謎だった。
主人公があの白い部屋で掴んだものこそが彼の現実だったんだなぁと。
つまり今度は自分が現実になりに行った
ラストは手を掴まれた研究員が志願してて、主人公と逆の立場になる流れだったけど
ここ別の人だと、主人公は良いけど中に入った被験者がまた現実感を喪失して
無限現実になりたい人製造機になってしまうね。ちゃんと考えてるね。


で、感覚遮断された人の精神がどうなるとか難しい事は全くわからないけど
実験室の中で見つけたものこそが真実なんじゃないかと思いました。
そして私は今実験室(仮)の中に居るわけです。
ガチじゃないけど、何か月も常人に比べたら僅かな感覚刺激で生きています。

 (やっと)耐えられないと思いました。

リタイヤできないけどリタイヤしたい。
ここから出たい。外へ出たい。でも出られない。出たい。
ガチだったらきっと秒で外出ただろうけど、私の場合はなんかこう…
緩い鎖というか、真綿で首を、的な感じなので踏ん切りがつかないというか。
大体外へ出たとして、やはり失われた現実感は戻らないのだし
私には掴む手も真実もなにもない。


こうなるって全員がわかり切ってたのに、なんで私は引き籠ったのか。
後悔しかない。時間の無駄だったと思う。
でも私は繰り返されるだけの日々の中でずっと何かを期待していました。
多分それが私にとって『真実』に当たるものなんでしょう。
そういうつもりは全くなかったんですけど、世界と関わりを断ち思考を麻痺させて
セルフ感覚遮断実験になってました。


多分私の真実は『刺激が少ないと人は生きられない』という
実験の被験者が絶対言うだろう感想で、被験者にならなくても予想が着く事でした。
そんな事をずっと待ってて私はアホなのかなと思いました。
だけど今なら何となくわかる。
アホだという前に、こんなことになってまで私の知りたかった奇跡を記したい。
全員が当たり前だと思っている事が私にとって奇跡だっただけ。
私がとても無知だっただけ。何も知らなかったのだ。
生まれてからずっと感じている自分の異質さ。
どうしても始まりは自分で味わってみたいと思ってしまうこと。
燃費も効率も最悪っ!と自分でも思うけど。


感覚遮断実験で本当に調べたいのは人間の精神の耐久度より肉体の耐久度だと思う。
まぁ両方で人間ですけど。
でも多分目的としては人体が宇宙でどれくらいもつのかを調べたかったんだと思う。
そこから何をさせればもっともつかとかバリエーションも考え付きそう。
でも意外にも浮き彫りになったのは精神の方で、体よりすぐ壊れちゃうって事でした。
人間の精神を壊すには与える刺激を少なくするという方法があるってわかりましたね。


・・・ああ。
そう。刺激がね。欲しいと思ったの。
それも当たり前の事だ。普通の人なら引き籠らなくてもわかる。賢いから。予想着く。
それに自分が刺激が嫌だから減らしたのに。誰も来ない所に居たいと思ったのに。
やっぱり「適度な刺激は必要」とかまともな事言い出して外へ行こうとするのか猿だな。

もし私にも「引き籠ってしまいたいけど結果コウなるだけ」って知る予知能力
一般的な論理的思考が働けば時間を無駄にせずに済んだのかもしれない。
私にあったのは自室への引力他人の磁力を避ける反発のようなものだけだった。

そして今もここに居続ける。誰も居ない部屋で何かが起こることを期待して。
期待して。期待して。期待して。
何も起こらない部屋であぶり出されるのは私の何なんだろうと、思ったりして
今日もただ無為に過ごす。


感覚遮断実験で精神が壊れるのは予想が着くけど『何故』壊れるのかはわからない。
社会とか他人から受けるストレスや将来の心配もない衣食住の約束された部屋で
ただ五感の刺激を減らしただけで何故精神に負荷がかかるのか。
それは部屋の外で何百人の精神を壊そうと、中で何百回体験してみようと
言葉で説明できないと思う。生き物だから、刺激が要るから、としか。
人の精神は理解できないから強化できないのかも。

ああ。壁に血や糞で絵や文字を書いたりする精神病患者の描写とかある。
閉鎖病棟とか保護室とか何もない所でどうにかして刺激を得たいと思ったら
私でもやると思う。今私何でか鉛筆とかペン持てないし。
人間ってすごく賢くてね、道具見て用途を認識してると体が反応するの。
鉛筆とかペンは『描く』道具だから、持つだけで脳がやらなきゃって結構ストレス。


こんな事を思うようじゃ、そろそろ自分が人だってことも忘れてしまいそうだな
という自覚は少しだけあります。怖いです。
最近は家族とも話してないし、真実の手どころか生き物に触れた記憶も薄い。
くそやばい、発狂する…と思いながらも何かを期待しているのでした。

 

かな。
漫画もそんな題材だった気がする。